ポストモラトリアム時代の若者たち(社会的排除を超えて)
「ポストモラトリアム」とは何か。個人的に「腐女子」の心理が理解できない。こんな二つの理由で購入を決めました。
世界思想社
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目次
序:失われたモラトリアムを求めて
第1部:モラトリアムからポストモラトリアムへ
第2章:ポストモラトリアムの時代ーリスク管理に忙殺される若者たち
第2部:若者たちのメンタリティ
第3章:スティグマ化とトラウマ化ーひきこもる若者たち
第4章:孤立化からの回復ーミーティングで変わる若者たち
第5章:方法としての「腐女子」ーオタク女子のメンタリティ
第3部:若者たちと社会
第6章:「物語なき物語」を生きるーモラトリアムの時間的変容
終章:ポストモラトリアムのゆくえ
まず、ポストモラトリアムとは何なのかについて。
子供から大人へと成長する時期、特に大学生活の4年間は「モラトリアム」と呼ばれ、労働力として社会へ出るまでの準備期間として、自己と社会を結びつける重要な期間とされている。また、高度経済成長を通じて、学歴により将来の職を振り分ける「パイプラインスステム」が生み出された結果、若者たちはこのモラトリアムの期間を自己のアイデンティティの確立に費やしてきた。しかしながら、高度経済成長の終焉によりパイプラインシステムが崩壊し、社会全体が若者に対する監視の目を強めることとなった。社会の変化に対し、若者側も早い時期から社会へ出る準備が求められるようになった。こうした背景の中で、徐々に「モラトリアム」が認められなくなり、「モラトリアム(執行猶予)なきモラトリアム(青年期)」を過ごすようになった。
この、新しい子供から大人への過渡期を本書では「ポストモラトリアム」と定義しています。
若者の価値観や行動が取り上げられ「最近の若者は〜」という声を聞くことが多いのは確かだが、この本を読む限りでは「ポストモラトリアム」を生きる若者たちに非の大半があるようには思えず、むしろ早い時期から社会へ出ることが求められるなどといった社会の変化に対応した結果なのであろうと感じられるようになりました。
それを表しているのが第2章にある、「排除型社会の登場」の部分です。
前時代の「モラトリアム」時代の若者を取り囲んでいた「包摂型社会」と呼ばれる社会は、若者たちの反抗に対しても、若者たちの成熟過程のなかで意味をもつと理解され、寛容さをもって接していた。つまり、若者の非行も正常な行動として認められていたのである。しかしながら、現在の「ポストモラトリアム」を生きる若者たちを取り囲む「排除型社会」と呼ばれる社会は、人間の可塑性や成長・変化への信頼が失われた社会であり、あらかじめ問題を起こすリスクをもつ若者は排除することが当然であるとする社会である。こうした排除型社会を生きる必要性が生まれた結果、若者たちは社会へと出るための効率性や有用性を追い求める集団と、排除され、ひきこもりやニートとして生きる集団とに二分されたのである。
次に「腐女子」について。
まず、漫画やアニメのキャラクターをパロディ化した「少年愛」を題材とした同人誌を好む女性たちを「腐女子」と呼ぶらしいです。知ってたけど。
そうした女性たちがなぜ「少年愛」を好むのかについても本書では触れられています。
そもそも「少年愛」とは、女性的な魅力も持ち合わせた男性同士での愛であり、女性性を否定した女性である「男装のヒロイン」と女らしい女性との愛とは異なる存在である。結果、彼女たちの愛は、異性間での愛と同じようにお互いに補完しあう融合的な関係でしかないという限界がある。しかしながら、「少年愛」という男性同士での関係は、それぞれが異質の存在であるという主体性をもっているが故に、腐女子たちにとっての「理想化された自己像」を重ねることができることができるため、彼女たちは「少年愛」を好み、腐女子化する。
さてさてさて、この腐女子の部分については、うーん...といったところでしょうか。
分かるようでわからない、といいますか、全く分からないといいますか。
なぜ腐女子たちは「理想化された自己像」を重ねたがるのでしょうか。そこについての説明が無かったような気がして、腐女子を完璧に理解することは出来ませんでした。読み取れなかった私のミスかもしれませんが。
それにしても、この腐女子の嗜好についてですが、男性側の目線でみてみると、
「女性愛」:男性的な魅力を持ち合わせた女性同士の愛
「女装のヒーロー」:男性性を否定した男性と男らしい男性の愛
ということになるのでしょうか...
あまり魅力的な気はしないのですが、世の男性方、どうでしょう?
こういった「腐女子的嗜好」は(一部/多数の)女性だけの特有な嗜好なのでしょうか。それとも本書では触れられている点とは別に、若者たち一般に言えるような要素があった結果、こういった嗜好が生まれるのでしょうか。少し気になります。
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全体を通して、現代の「ポストモラトリアム」を生きる若者たちがどのような特徴を持っているのか、それは「モラトリアム」時代の若者たちと比べた時はどうなのか。また、社会全体の変化とそれが若者たちに与えた影響はどうだったのか、など読むほどに納得する様な感覚を得ることが出来た一冊でした。
分量としては200ページ強ですので、一冊通して読まれるのも良いかと思いますが、私のオススメとしては1・2・6章ですので一度読んでみてください。
それではお腹すいたので、今回はこれで。